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大学生の頃。
嘔吐恐怖症だった私は、
毎日、予期不安に苦しんでいました。
気持ち悪くなったらどうしよう。
吐いたらどうしよう。
外で具合が悪くなったらどうしよう。
そんなことばかり考えていました。
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でも。
そんな私にも、
唯一、恐怖を忘れられる時間がありました。
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それは、
アルバイトの時間です。
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当時の私は、
週3日ほど、スーパーで働いていました。
仕事内容は、
レジと品出し。
ごく普通のアルバイトです。
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夕方になると、
お店はかなり混雑します。
次々に来るお客様。
鳴り続けるレジ。
終わらない品出し。
とにかく忙しい。
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でも不思議なことに。
あれほど毎日苦しんでいた私が、
バイト中だけは平気だったのです。
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もちろん。
バイトへ行く前は不安でした。
今日も行けるかな。
途中で気持ち悪くなったらどうしよう。
レジ中に具合が悪くなったらどうしよう。
怖い。行きたくない。
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でも、当時の私は、
心療内科へ通うお金も必要でした。
不安を和らげるためのグッズも、金額を気にせず沢山買いたかった。
生活や心にゆとりを持っていたかった。
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だから怖くても、
働かなければいけませんでした。
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でも。
実際に働き始めると、
その不安は少しずつ消えていきました。
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吐き気を忘れる。
動悸も気にならない。
身体の違和感も気にならない。
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気づけば、
あっという間に退勤時間。
さっき出勤したばかりなのに、
「もう終わり?」
と思う日もありました。
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まるで。
嘔吐恐怖症になる前の自分に戻ったみたいでした。
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今振り返ると。
私は仕事に没頭していたのだと思います。
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次のお客様の対応。
次の作業。
次の商品。
次にやること。
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考えることが次々に出てくる。
だから、
自分の身体を監視する時間がない。
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予期不安を考える暇がなかったのです。
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そして実は。
当時の私も、
なんとなく気づいていました。
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忙しい時は平気。
考える時間があると苦しくなる。
予期不安は、
気にすればするほど大きくなる。
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だから本当は、
回復へのヒントも見えていました。
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何かに集中する。
何かに没頭する。
考える時間を減らす。
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きっと、それが大切なんだろうな。
そんなことは、
当時の私も薄々分かっていました。
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でも。
それができたら苦労しません。
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新しい趣味を始める。
外へ出る。
気分転換をする。
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そういうアドバイスを見ても、
それが、回復へのヒントだとわかっていても、
怖くて動けなかった。
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頭では分かっている。
でも身体がついてこない。
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分かっているのにできない。
それが本当に苦しかったです。
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バイトが終わると、
私はいつも安心していました。
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今日も無事に終わった。
今日も帰ってこられた。
そんな解放感がありました。
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でも。
お風呂に入る頃。
ご飯を食べる頃。
寝る前の静かな時間。
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少しずつ、
また不安が戻ってくる。
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忙しさの中で隠れていた予期不安が、
また顔を出すのです。
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それでも。
あのバイトの時間は、
私にとってとても大切なものでした。
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なぜなら。
バイト中だけは、
昔の自分に戻れていたからです。
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その時間があったからこそ。
私は少しだけ、
症状に苦しんでいる自分自身を、客観的に見ることができました。
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バイト中の私は、
笑っていました。
お客様と普通に会話をしていました。
吐き気のことも忘れていました。
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つまり。
「本来の私は、こうだったんだ」
ということを、
思い出すことができたのです。
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苦しんでいる時の私は、
自分のことを、
ずっと壊れてしまった人間だと思っていました。
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もう元には戻れないかもしれない。
一生このままかもしれない。
そんなことばかり考えていました。
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でも。
バイト中だけは違った。
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不安に支配されている自分とは別に、
昔の自分も、
ちゃんと残っていた。
消えてしまったわけじゃなかった。
見えなくなっていただけだった。
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もちろん当時は、
そこまで冷静には考えられませんでした。
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それでも心のどこかでは、
「予期不安が症状を大きくしているのかもしれない」
と感じていました。
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そして今振り返ると。
その気づきは、
回復への小さなヒントだったように思います。
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症状に支配されているように感じても。
不安しかないように感じても。
夢中になれる時間があると、
不安は少し静かになることがある。
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あの頃の私は、
アルバイトでそれを教わりました。
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もし今、
予期不安で苦しんでいる方がいたら。
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「少しだけ楽だった時間」
「少しだけ昔の自分に戻れた時間」
がなかったか、
思い出してみてください。
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私は、
アルバイトの時間だけ。
ほんの少しだけ、
普通の自分に戻れていました。
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そしてその時間は、
回復へのヒントをくれた、
大切な時間でもありました。
当時は気づかなかったけれど。
私はあの頃、
少しずつ回復への道を歩き始めていたのかもしれません。
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「こんな人もいるんだ」
そう思ってもらえるだけで嬉しいです。
この場所が、
少しでも安心して息をつける場所になりますように。
バイト中だけ、私は普通の人に戻れた
03. 嘔吐恐怖症


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